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「おはよう、晴空!」

「おはよう、のんちゃん!」

久々に会ったクラスメイトとのお喋りで、教室は騒がしくなっていた。

授業がないので、お財布や定期、筆箱に手帳と少しのお菓子しか入っていないリュックを置き、のんちゃんの席へ向かう。

「晴空は課題終わった?」

「うん。のんちゃんは?」

「私は大丈夫! 課題って最初の授業に出すじゃんだからそれに間に合えば平気でしょ!」

「まさかのんちゃん、終わってないとか?」

「その通り!」

のんちゃんはいつも期限ギリギリまで課題を残しておくタイプ。
定期考査後の提出物も当日に終わらせるという子。

「でも、作文は終わったよ!」

「珍しい!」

「だって、今日提出だもん!」

SHRが始まるチャイムがなると、クラスメイトは一斉に自分の席へ戻った。

「おはようございます。皆さん元気にしていましたか? これから始業式が始まるので、時間になったら出席番号順に並んでください。先生は準備があるので、学級委員の指示に従ってください」

センセイは要件だけを伝えると、どこかへ行ってしまった。

「ねぇねぇ晴空ちゃん!」

「どうしたの?」

横を向くと、落ち着きのない亜美がいた。

「たまたま職員室覗いたらね、ちょーイケメンの転校生がいたの!」

「転校生?」

「そう! めちゃくちゃイケメンだったの! それも田所先生と話してたからもしかしたら、うちのクラスかも!」

「どうかな? ただ、先生に挨拶してただけかもよ?」

学級委員が並べという指示が出たので、転校生の話は終わった。

これから校長先生のありがた〜いお話を聞くと考えると体調が悪くなりそう。

体育館の籠った空気。先生の長い話。セミのうるさい鳴き声。

「そういえば、今回も晴空は校歌伴奏するの?」

「頼まれたから、仕方なくね」

本来なら3年生の役目だけれど、何故か1年の私がやることになった。

事件は入学してすぐの音楽の時間。

昼休みを挟んで5時間目に音楽があったので、仲良くなったのんちゃんと一緒に早めに音楽室へ来た。

先生はプリントを各机に置くという作業をしていた。

暇だったので先生に許可を取り、のんちゃんはピアノを弾き始めた。

「上手ですね、坂本さん」

「絶対先生の方が上手ですよ」

そんな会話を横で聞いていると、「晴空は弾ける?」と言われたので、ピアノを弾いた。

モーツァルトのトルコ行進曲のサビを演奏したのんちゃんに負けないようにショパン エチュードOp.10-1を演奏した。

弾いて思った。この曲を選んだ私がバカだと……

のんちゃんも先生も驚きを隠せていない。

音楽室にはクラスメイトが集まる。

途中で演奏を終わらせようと思ったけれど、先生のもっと聞きたいという要望に答えて、最後まで演奏してしまった。

ちょうどチャイムが鳴り、席に戻る。

私の負けず嫌いが、最悪な結果を生み出した。