「櫻木晴空(そら)です」

「晴空ちゃんか。可愛い名前だね!」

「ありがとうございます」

「それじゃ、また明日」

「さようなら」

私の家とは正反対の方向へ歩き始めた男の人。

きっともう会うことは無いだろう。

買った時は冷たかったペットボトルの紅茶も暖かくて、セミの鳴き声で余計に暑さを感じてしまう。

みんな、夏になれば冬が恋しくて「早く冬にならないかな?」と言っているけれど冬になれば「早く夏にならないかな?」と言う。

夏は海やプール、夏休みという長期間の休みでみんな夏を楽しんでいる。

冬はクリスマスやお正月。夏休みより休みの期間は短いけれど、鍋料理は美味しいし雪遊びは楽しい。

四季がある日本だからこその文句なんだと思うけれど、ちょっと四季に失礼な気がする。

暑いのや寒いのは確かに辛いけれど、それぞれの季節いい事は沢山ある。
早く次の季節になって欲しいなんて言ったら可哀想。

「ただいま〜」

買ってきたモンブランと紅茶を冷蔵庫に入れ、ソファーに座ってスマホの画面を見る。

『なぜ、9月1日は子供の自殺は増加するのか』

ニュースアプリを開くと、この記事が嫌でも目に入る。

「あれ、帰ってきたの?」

2階にいたお母さんがリビングに顔を出した。

「ただいまって言ったけど?」

「そうだったの? もっと叫んでくれないと」

「じゃぁ今度から大声で叫ぶよ」

スマホの電源を落とし、冷蔵庫に入れたモンブランを取りだす。

「いいな〜お母さんの分も買ってきてくれたら嬉しかったのに」

お羨ましそうにしているけれど、お母さんは栗があまり好きじゃない。

「学校の帰りに他の新作スイーツ買う予定だし、明日ね」

「やったぁ!」

明日は午前中で学校が終わるから、部活のある海美(うみ)より帰りが早い。

お土産はお母さんだけでいいか。

「私はまだ課題残ってるから、部屋戻るね」

「前日なのに終わってないの?」

「簡単な作文だし、出さないつもりだから」

「提出物はしっかり出さなきゃダメよ?」

「はいはい。」

冷蔵庫からペットボトルを取りだし、リビングを出る。

「ちゃんと冷房つけてね〜」

「は〜い!」

階段を登りながら返事をした。