あぁ、料理の修行をして自分のカフェとか持ってみたい人生でした。

ガクリと完全に動きを止めた私の肩を、青年がゆらす。

「君、君、しっかりしてくれ。……これは酷い、ボロボロじゃないか」

もう疲れたんだ私は、放っておいてくれ。

「仕方ない、運ぶか」

何者か分からない彼は、簡単に私を抱き上げてしまった。力の抜けた片腕がプラーンと揺れる。

しっかりとした足取りで、彼は前へ前へと進んでいく。もしかしてこの道の先には、また違う町があって私は売られるのだろうか。

そのときはまた、隙を見て逃げなきゃ……。

隙を見て逃げるためには、起きておかなければならない。ただ、体は限界をとっくの昔に超えている。

うつろうつろと視界が、ぼやけ始めた。寝ては駄目だと思っていても、体は今一番睡眠を欲しているらしく回避のしようがない。

わけが分からないづくしで、精神的にもかなり疲れているのだろう。

――あぁもう一度眠って、目が覚めたら全て元に戻っていて欲しい。





◇◇◇◇


小鳥たちのさえずりと、優しい日の光で自然と目が覚めた。窓のレースカーテンがふらりふわりと揺れるのをボーっと眺めていて我に返る。

「ここ何処!?!?」

柔らかい布団に腕をついて、そのまま体が沈んだ。なんとか這い出して、部屋の中をうろうろと徘徊する。

昨日何度も転んで出来た膝の傷は、綺麗に手当てされていた。着ていた服も、綺麗なものに変わっている。

ただ、全て元に戻っていて欲しいという願いはかなわなかったようだ。

窓の外に広がる森を見て、着ている服をギュッと強く握り締めた。