少し歩くと颯ちゃんは、私の顔を覗き込む。そして、少年のような目をして、二ッと笑って言った。

「そういえば一香さん、今日ずっと涙目でしたよね? どうかされたんですか?」

 意地悪だ。
 全部、わかっているくせに。

 私がずっと、あなたのことだけを考え、あなたの行動一つ一つに、心を揺らしていたことに、気づいているくせに――。

「泣いてないから! おなかが減っただけだから!」

「はは。そうでしたか。では、何か買って帰りましょう」

「それなら和菓子やな! 和菓子買って帰ろうか!」

「和菓子はもう食べ飽きました」

「おい、おっさんっ‼」

 柔らかな香りが私たちを撫でるように通り過ぎる。

 彼女が残した追風用意が“ありがとう……”の意味を含んで、私たちを包んでいた。