ポロポロと涙をこぼしていたのは、彩乃さんだけではなかった。
気づけば、目の前に颯ちゃんがいて、零れ続ける私の涙をひとさし指ですくって言った。
「一香さん、ただいま戻りました」
「……お疲れさまでした」
やっと出た言葉に、颯ちゃんは片方の口角を上げて言った。
「でも、一香さん、のぞき見はダメですよ」
「……っ!」
「俺が連れまわしてん! おっさんが悪させえへんか見張るために!」
いらずらっこを叱る先生のような颯ちゃんに、恭太郎が言い返す。
けれど、颯ちゃんは恭太郎を完全無視して、私だけを見つめて言った。
「なんて、冗談ですよ」
「……うう」
「僕だって、反対の立場ならずっと見張っていますから」
いや、見張るも何も反対の立場なら絶対に行かせないですけどね。隣にいる猿太郎の存在ですら許せないですし、ずっと監視をしていたのは実は僕のほうで。途中見えなくなった時は、ほんとひやひやしましたよ……ぶつぶつぶつ。
何やらボソボソと独り言を言う颯ちゃん。
全部聞こえているんだけど……。これ、どう反応したらいいの?
「猿太郎って誰のことや。ふざけんな」
隣で恭太郎が吼えているけれど、それもきれいにスルーした颯ちゃんは、「無事でよかった」と私の髪を一撫でして、「行きましょう」と隣に並んで歩き出した。