「私の体を気遣い、休めるところを多く入れてくださった」

 静かに笑みをこぼす颯ちゃん。彩乃さんは頭を下げた。

「大変失礼なことをしてしまい、申し訳ありません。姉の雪乃と私は、一卵性の双子。どちらが来ても大抵の人はわかりません。姉から一日デートできる機会をもらったと聞き、行っておいで、と背中を押されました。そして、一時退院させてもらい、思い出作りに来てしまいました」

 ゆっくりと颯ちゃんがうなづく。

「私、ずっと透明人間だったんです……双子だけど、いてもいなくていい存在。雪乃が光で彩乃は影だなんて、言われたこともあります。それでも私は、誰かに覚えていてほしかった。忘れないでいて欲しかった……」

「だから、同じ香りを衣服にしたためておられたと」

「はい……。でも、そんな些細なこと誰も気づいてくれなかった……。最後まで誰にも気づかれないと思っていたのに……」

 両眼からポロポロと涙を零しながら、彼女が言う。

「ありがとうございます。颯也さん。本当にありがとう……ございました」

 彼女の体から出る色の揺れ動きに、私の心も泣き出しそうだ。

「初めて好きになった人が、こんなに素敵な人でよかった……」

 初恋が、昇華され、思い出になっていく――……。

 色の欠片が薄くうすく天に伸びていく。

「私、絶対元気になりますから。元気になったら、友人として、また遊んでください」

 溢れる涙をぬぐって彼女が言った。

「もちろんです」

「では、そろそろ帰ってあげてください。あなたの大切な人がずっと、涙をこらえながら、こちらを見ています」