「はあ? じゃなくて。ほら、恭太郎早く帰った方がいいよ? 美津子おばさん探してるはずだよ?」

 私たち老舗を継ぐ子どもや孫は、学校から帰ってくると、店番をするのが日課になっている子が多い。

 私もいつまでも恭太郎と話してばかりはいられない。お客さんが来たら失礼にあたるから。そのことは、恭太郎も理解してくれたようで、
「明日は勝手に帰るなよ」
 それだけ言って、店を出て行った。

 そんなこと言われても……。私は、ふうと大きく息をついた。

 最近、二人で一緒にいると「一香と恭太郎君って、付き合ってるん?」と聞かれることが多くなった。一年生の時は、「家がそばだから、京都のこと教えてもらってるの」そう言えば、ほとんどの人が納得してくれたのに、最近は納得してくれない女の子も出てきた。

 きっと恭太郎がモテだしたんだと思う。

 だから私は、一歩下がったところにいなきゃいけないと思ったんだけど……。なかなかうまく伝わらないな……。ふっと短く息を吐きだした時、大きな暖簾をくぐって、お客様が入ってきた。

「こんにちは」

 私は口元に笑みを添えて、令月香の従業員に徹した。

「いらっしゃいませ」