二人は地主神社へ行くと思っていた。
 けれど、地主神社へ繋がる急な階段は登らず、そのまま清水寺の散策を楽しんでいた。

 肩を並べて、ゆっくりと歩く二人を見つけて、私たちは大慌てで、隅に隠れた。

 彼女は写真スポットにこだわっていないようだった。
 清水寺のいたるところで、自然体の颯ちゃんの写真を撮っていた。

 構えた颯ちゃんより、何気なく話しかける颯ちゃん。先に降りて手を差し伸べてくれる颯ちゃん。清水寺内のお茶屋さんに寄って、アイスコーヒーを飲む颯ちゃん。飲み終わって、新緑を見ている颯ちゃん。どの颯ちゃんも、普段通りの颯ちゃんだった。

 恋をしている女の子がドキンとする表情だったり、仕草だったり。彼女はそんな日常の中にある颯ちゃんの姿を写真に残そうとしているように見えた。

 清水寺で撮られた数々の写真を、私も見てみたいと思ってしまった。

 そんなこと……、言えるわけないけれど。

 清水寺を出た二人は、二年坂三年坂と呼ばれる情緒たっぷりの坂道を歩きながら、お土産チェックをしている。

 颯ちゃんの側に立つ彼女からは、ずっとふわふわとしたビタミンカラーが見えていた。

 その色は「楽しい」や「嬉しい」。そんな意味合いを持つ揺れ方だった。

 あんなに可愛い揺れ具合を見たのは初めてで、私は彼女の想いの強さを知ることとなった。

「次は、金剛寺ですね」

 ふいに、風に乗って低い声が届いた。颯ちゃんの声だ。

「あそこは、写真映えするスポットとして有名ですが、それは女性限定だと思うのですが」

 額を何度かかく颯ちゃんは、とても困惑していた。

 わかる。だって、あそこは手足をくくられた猿のお守りが有名で、そのカラフルなくくり猿の前で、浴衣を着た若い女の子たちがよく写真を撮っているからだ。

「颯也さんなら似合うと思います。でも、無理やりにとは言いません。ここ飛ばしますか?」

 彼女の気遣いに颯ちゃんは目を細め、「撮りましょうか」と返事をした。