「では、行きますか」

「はい」

 私たちの存在に気づくこともない二人は、京都の町を歩き出した。

「お手紙の中に書かれていた”たらればのデートコース”で大丈夫ですか? もし追加があれば、聞きますが?」

「だ、大丈夫です! すみません、妄想好きの妹が無理なことばかり書いてしまって」

手紙の中には理想のデートコースが書かれてあったんだ……。内容を知らない私はごくりとつばをのんだ。

「いえいえ。実はそちらの方が助かるんです。僕、デートにはなれてなくて」

「え……、お付き合いされている方は……」

「ええ。先日もお話しましたが、現在はいません。今、香司の勉強で精一杯なんです」

 彼女の色が、可愛らしく跳ねた。

「香司……、そういえば、てくてく京都に“淡路からきた若き香司”と書かれていましたね」

「ええ。お店を大きく取り上げてくれると思って取材をOKしたのですが、なぜか僕の顔の方が大きくて。あの記事にはまいりましたね」

 彼女の優しい色が颯ちゃんを包みこんでいた。
 私には、その色と二人のやりとりが突き刺さっている。

 颯ちゃんは、私以外の女の人にこんな風に話しかけるんだ。そんな風に笑うんだ……。
 どれもこれも、私が颯ちゃんからもらっているものと同じで、突きつけられてしまう。

 私、賀川一香は、令月香の孫娘。
 だから、颯ちゃんは優しくしてくれるのだと。
 今、そばにいてくれるのだと――。

 歩き出した二人を見ながら、茫然と立ち尽くしていると、恭太郎に引っ張られた。

「一香、行くぞ」