「大変失礼なことをお願いしているのは承知しています。ですが、もし聞いていただけるのなら、お相手はどなたでもかまいません。三ツ井さんの恋人でもいいですし、お友達でも構いません。私は、一度でいいから”好きな人とデートをしてみたかった”という妹の願いをかなえてやりたいんです」
真っ赤な目をして、切実に彼女が言った。
彩乃さんのお姉さんの雪乃さんは、ずっと大切な妹さんのことを心配して暮らしてきたのだろう。
丈夫な体を持つ自分と、体の弱い妹さん。
彼女を守るナイトは、年上のお姉さんである雪乃さんだったのかもしれない。
手術前に、過去の後悔を清算したいと考える。それはどういうことだろうか。
病の名も、病状の深刻さもわからないけれど、半端な気持ちでお願いしているとは思えなかった。
「先日お渡しした手紙は、妹が十年間隠し持っていたラブレターなんです」
「読ませていただきました。文香と一緒に、心のこもった素敵なお手紙でした」
「十年前の手紙を持っていくと言ったら、初め彩乃は怒ったんです。けれど、最後には、”お姉ちゃんお願い”と言ってくれました。あの子もこの手紙をいつか渡したいと思っていたのだと思います」
「……そうでしたか」
視線を落とした颯ちゃんは今、何を考えているのだろう。
「写真くらいなら何枚でも撮っていただいて構わないのですが、何せデートとなると……、相手がいなくて……ですね……」
ポーカーフェイスで饒舌な颯ちゃんが珍しく困っている。
「恋人は、いらっしゃらないのですか?」
「ええ」
「なんやて?」