颯ちゃんはどんなに人にも対等に優しい。

 彼は、透明人間だった私にも居場所をくれた人だから。

 私には彩乃さんの気持ちが痛いほどわかった。

 そして、そんな彼女は今、過去をやり直したいと願っているのかもしれない。

「たしかに、数回しか学校へ来ず、退学したクラスメイトはいましたが……、申し訳ありませんが、その方のことをおぼろげにしか思い出せません……、声をかけた記憶も正直……」

 途切れ途切れに颯ちゃんが言った。

「あたりまえです。もう十年も前の記憶ですよ。しかもたった数回、学校へ行っただけ。日直の時に顔を合わせただけのクラスメイトを明確に覚えておられたら、そちらのほうが驚きです」

 彼女は目の前に煎茶を少しだけ口に含み、息を整えてから話し出した。

「けれど、妹にとって、高校生活の楽しかった思い出は……、それだけで……」

「…………」

「妹は今も、あの初恋の場所から動けずにいます」

「…………」

「三ツ井さん、どうか、妹のたらればを叶えてやってもらえませんか?」

「たられば?」