けれど、彩乃さんはその日を最後に地元の高校を退学した。

 手術が成功して一年が経ち、町に出た彩乃さんは、偶然颯ちゃんと出会った。

けれど、気づいたのは彩乃さんだけ。

 通り過ぎる颯ちゃんに、彩乃さんは声をかけることができなかった。

 残念な気持ちで歩き出すと、少しして颯ちゃんが振り返り、「……佐伯さん?」と呼んだ。そして「……元気?」と。

 彩乃さんは嬉しすぎて、「うんっ」と答えた。けれど、緊張のあまりそれ以上は何も言えなかった。

「“てくてく京都”に載っている三ツ井さんを見ながら彩乃は言いました。もし、あの時……、もっと会話ができたら……、連絡先を渡せたら……、また会いたいと言えたら……、そう思うと無念でいっぱいになると。三ツ井さんは、彩乃にとって、“透明人間だった自分を見つけてくれたたった一人の男の子”なのだと、そう話していました」