「誰? 手紙って何?」

 和菓子を提供し終えた恭太郎がこっそり耳打ちした。

「お客様の妹さんが、颯ちゃんのお知り合いみたいで……」

「ふ~ん。えらい重い空気やし、おっさんが悪さでもしたんかと思った」

「恭太郎?」

 颯ちゃんは、悪さなんてしないから! そう思いギロリと睨みつけると、恭太郎は小さくなって厨房に逃げた。

「あの、三ツ井さん」

 電気香炉からうっすらと伽羅の香りがしている。そんな中、彼女が颯ちゃんに声をかけた。

「はい」

「妹……、佐伯彩乃のこと、覚えていますか?」

 颯ちゃんは、遠い記憶を探るような目つきをした後、「……申し訳ありません」と謝った。

 記憶の中に“佐伯彩乃さん”という女性は見つけられなかったのだろう。

「そんな、謝らないでください」

 彼女は大きく手を振ると、「覚えておられないのは仕方がありません」と言葉を続ける。

「僕と彩乃さんは、高校の時のクラスメイトだったんですよね?」

「ええ。手紙に書いてあったかしら?」

「はい。僕とは、高校一年生の時の同級生だったと」

 彼女はコクリと頷く。

「妹の彩乃と三ツ井さんは高校のクラスメイト。最近、“てくてく京都”と題された雑誌で、三ツ井さんを見つけて、高校時代の思い出を……いろいろ話してくれたんです」

 それから雪乃さんは、妹さんの過去を色濃く教えてくれた。