『ありがとうございます。これからどうぞよろしくお願いします』

 これでご挨拶は終了かと思っていたけれど、祖母は恭太郎を見つめて、話を続けた。

『今日はご挨拶ともうひとつ、恭ちゃんにお願いがあってきたんや』

『俺に? ……何?』

 ぶっきらぼうに恭太郎が言う。

『恭ちゃんと一香、同じ高校に通うことになったんや。それでしばらく一香の面倒を見てやってほしいねん』

『え⁉』
『は?』

 祖母は、はっきりとそう言った。と同時に、私も驚きの声を上げる。

 瞬時に恭太郎の眉間に深いしわが寄った。彼の体から放たれる空気と色が「嫌だ」と言ったのがわかった。

『なんで俺が面倒なんてみやなあかんねん。同じ年やろ? 高校生になるんやろ? そんなら、一人で学校くらい行けるやろ』

 ほんとこの人分かりやすいな。清々しいくらい、全ての感情が顔と色に出ている。

 けれど、恭太郎がそう言うことは、祖母はきっとわかっていたのだろう。祖母は、動揺することもなく、話し出した。

『恭ちゃんのお世話になる代わりにって言ったらアレやけど、ウチの令月香、来年の夏から“聞香カフェ”をはじめるやろ?』

『それは……母さんから聞いてるけど……』

『そこに美味しい和菓子をおこうと思ってるんや』

『え……和菓子……』

 美津子さんの目の色が変わった。恭太郎の顔色はどんどん悪くなっていく。
『それでもしよかったら、恭ちゃんところの雫屋さんの和菓子と提携させてほしいと思ってるんやわ』

『もちろん! 喜んで! 恭太郎の無駄にでかい体、いつでも、なんでも、どんな時でも、使ってやってください!』

 美津子さんが恭太郎の背中をドンと叩いた。