やわらぎ聞香処がオープンしてから、二度目の週末がやってきた。
 一度目の週末は、オープンしたばかりということもあり、客足はまばらで、お手伝いに来てくれていた恭太郎も途中で帰ってしまうありさまだった。

「今日も必要なかったら、途中で帰るしな」

 厨房でブツブツと文句を言っているのは、雫屋から駆り出された恭太郎だ。
 和菓子屋の息子なだけあって、彼の入れる緑茶はとても美味しい。

「恭太郎の入れてくれるお茶、美味しいって評判なんだから、そう言わずに力を貸してよね」

「しゃーないな」

 私の声に、恭太郎は気のない返事をした。

 最近の恭太郎はなぜか機嫌が悪い日が多い。
 どうしたのだろうと考えるも、答えがわからなくてため息をついた。

「おはようございます」

 木製の引き戸が開いて、颯ちゃんが入ってきた。
 彼は一番にこの店へやってきて、店内を磨き上げ、先ほどまで庭先一帯を箒で掃いていた。

 開いた窓から外の様子が伺える。
 水捲きが終わり、外の看板も準備中から営業中へと変わっていた。開店準備が整っている。

 藍染の着物を着た颯ちゃんは、長め前髪をきっちりと分けていた。
 普段は、おでこが隠れた姿ばかり見ているので、おでこが出ているだけで、大人の雰囲気が増した気がする。

 そんな彼の姿に、胸の鼓動を早まらせていると、颯ちゃんが近くに寄ってきた。

「一香さんの着物姿、今日もステキですね」

 今日着ているのは、桜染めと言う着物だ。

 昔、祖母が気に入っていたという着物を譲り受けたのだ。
 ストレートに女性を褒めてくれる若い男性はなかなかいないが、颯ちゃんはいつでも褒めてくれる。颯ちゃんの言葉に、スマートな佇まいに、私は俯きがちに「ありがとうございます」と頭を下げた。

「ですが」

 そう言った颯ちゃんの手が伸びてきた。