颯ちゃんは、他の人に見せるような笑顔を私に見せると、何事もなかったように鞄の中に手紙を入れた。そして、私のほうに目を向けて言った。

「令月香へ入りましょうか」

 颯ちゃんは、私の持っていた大きな暖簾を手に持つと、先に私を店内へ入るように促した。

「一香、遅かったなぁ。……あ、颯也くん」

 大好きな颯ちゃんの姿に、祖母の目が輝いた。

「なんや、二人で話こんでたんかいな。颯也くん、おかえり。遅くまで頑張ってたんやなぁ。あれ? 虎次郎さんは?」

「ただいま戻りました。虎次郎さんは、そのまま作業場へ向かうと仰って」

「そうかそうか。なんか閃いた香りがあったんかもしれんな。そういう時は、一人にさせてあげるんが一番やわ。虎次郎さん、ええ香り見つけてくれはったらええな」

「はい……」

「ほな颯也くん、のんびりしていき。一緒に晩御飯も食べて帰ったらええわ」

「ありがとうございます」