私が外へ出ると、空は紫色をしていた。
日の長い夏にも、ゆっくりと夜はやってくる。その準備をしている時間が私は好きだ。
玄関にかけられた暖簾の前で、アーケードの奥に見える夕焼け空を眺めていたら、
「すみませんっ」
そう背後から突然、声をかけられた。
振り向くと、そこには二十代半ばくらいの女の人が息を切らして立っていた。
走ってきたのだろうか。額に汗が浮かんでいる。
彼女を取り巻く色はオレンジ。オレンジの中でも色鮮やかなビビットな色だ。
これだけ美しいビタミンカラーを見たのは久しぶりで驚いた。
「もう閉店時間ですか?」
息を切らして走ってきたであろう女性を無下にできるわけもなく、暖簾を元の場所にかけなおすと、彼女に問うた。
「まだ大丈夫です。お買い求めの商品はお決まりでしょうか?」
「お買い求め……? あ、私、こちらのお香屋さんではなく、先日オープンしたばかりの聞香処さんへ行きたいのですが」
「申し訳ありません。聞香処は、本日定休日となっておりまして」
頭を下げてそう言うと、彼女はそうでしたかと呟いて、店舗の中を覗き見た。
誰かを探しているのだろうか。