オープンから数日はポツリポツリと来ていたお客さんが一気に多くなった。
 どうしてだろうと思っていると、その晩、おばあちゃんがある雑誌を持ってきた。

「てくてく京都……?」

 京都のご当地雑誌だ。その時々の京都のおすすめのお店や商品、時の人などを紹介している。美しい写真と、わかりやすい記事。読むと京都に行きたくなると有名な雑誌のひとつだ。

 水色の表紙をしたその本をぺらりと一枚めくって、目を見開いた。

「ここ……やわらぎ聞香処だ……」

 オープン当日、四人並んで撮った写真が映っている。

 その横には、聞香処を紹介する文章がある。
 そういえば、少し前、令月香に雑誌編集者の方が来られていたっけ。

 私はてっきり、令月香の取材なのかと思っていたけれど……。あの時、少しだけ見えた原稿この記事だったんだ。

「すごいね! おばあちゃん! やわらぎ聞香処、こんなに大きく載せてもらえるなんて」

 こんなに嬉しいことはなかなかない。

 そう思いながら、次のページをめくって息をのんだ。

 そこに、彼がいたからだ。

 電気炉を使って、香りを聞く颯ちゃん。
 香木の匂いに心を傾け、目を閉じている姿は、とても端麗だった。

 目が離せなくなる。どうしよう……胸が苦しいほどに、痛い。