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 胡蝶蘭やスタンド花などたくさんのお花が運び込まれ、祖母、祖父、颯ちゃん、そして私の四人が並んで記念写真をした。

 今日は、「やわらぎ聞香処」のオープンの日。
 この店の責任者であり、店長は颯ちゃんだ。オーナーが祖父になる。
 祖母が令月香と、聞香処を両方行き来し、私が学校から帰ると祖母とバトンタッチして、聞香処へ入ることになっている。

 忙しさがピークになるであろう休日の厨房は、しばらくは恭太郎が手伝ってくれる予定だ。

 私はこのオープン日までに、颯ちゃんから聞香の指導を受けた。
 和菓子と煎茶付きで楽しめる聞香メニューは全部で三種類。なじみ深い「沈香(じんこう)」、甘く爽やかな香りの「百壇(びゃくだん)」、香木の中でも最高級といわれる「伽羅)(きゃら)」。

 その中から一つお好きな香りを選んでいただき、選ばれた香木を電気炉で炊き上げ、簡単な香りの聞き方をお伝えし、心を落ち着けて、香りを聞いていただく。

 その人だけのゆったりとした時間を楽しんでいただきながら、雫屋から毎朝運ばれる最高の和菓子を食べてもらう。これが聞香カフェの一連の流れとなっている。

 電気炉の持ち方、手の添え方、香の聞き方。見本となる店員の所作は、無駄なく、美しくあるべきだ。と、そう颯ちゃんから厳しく言われていた。

 彼がこれほど所作に厳しいのは、日頃彼が気を付けていることの一つなのかもしれないと私は思った。

 だって、今、電気炉に香木を入れて空薫をしている颯ちゃんの横顔は、ため息が出るほど美しい。若いころの祖父が着ていたという紺色の着物もよく似合っている。

「もう……開いていますか?」

 彼の所作に心を奪われていると、一人目のお客様がやって来た。

 私は、心を落ち着けて言った。

「はい。営業しております。ようこそ、やわらぎ聞香処へ」