それに、離れていた間、私は彼の言葉と匂い袋に救われていた。

 自分の力が嫌いで仕方がなかったあの頃、彼の言葉を思い出し、何も見ずに香りを聞く。そうすることでなんとかやってこれた。

 今の私があるのは、あの神社での出来事のおかげだ。

 そう思うと尊敬の念からも自然と敬語になってしまう。でも、そのことを……素直に言葉にできなくて。

「もう高校生だから、敬語ぐらい使えます」

 頬を膨らませて言ってしまった。

「そうか。もう高校生」

 すると、颯ちゃんはやっと気づいたかのように、真顔で答える。

「ええ! 本当に高校生だって気づいてなかったんですか⁉」

「そんなわけないじゃないですか」

 慌てる私に颯ちゃんは声色を落とした。

「ですが、やはり敬語はいりません。前のように呼んでもらわないと、距離を感じて悲しくなりますので」

「そういうものですか?」

「そういうものです」

 私は、少し考えたから頷いた。

「じゃあ、元に戻すね。颯ちゃん」

「はい。そのほうがいいですね」

「じゃあ、颯ちゃんも敬語やめてよ。私のほうが年下なんだから、もっと偉そうにしてくれていいよ?」