夏の京都の夜は、にぎやかだ。

 祖父母は、知り合いの店に顔を出してから帰ると言うので、私と颯ちゃんは、二人で河原町通りを歩いていた。

「相変わらず、にぎやかですね」

「ええ。ここを通ると、夜だということを忘れてしまいそうになります」

 多くの人でにぎわう河原町通りは、歩くのもやっとだ。早く商店街の中へ入りたいと思ってしまう。

「実は、前から思っていたのですが」

 人込みにぶつからないように気をつけて歩いていると、唐突に颯ちゃんが言った。

「なんですか?」

「一香さんはいつから僕に敬語を使うようになったんですか?」

「え?」

「いや、僕が京都を離れる前は、敬語ではなかったはず……」

 颯ちゃんの思い出の中の私は、小学生だ。

 小学生の私は、颯ちゃんを本当の兄のように信頼していたし、なついていた。だから、へたくそな敬語なんて使わなかっただけなのだ。