もうすぐ七十歳を迎える祖父だが、ほんのりと暗くなった夜の町の中で見る祖父はいつもより迫力がある。

 香司である祖父は、商品を作っていたり、お寺などを回っていたりするので、なかなか会う機会がない。

 祖父の声を聞くと、緊張で背筋がピンと伸びる気がする。それは颯ちゃんも同じなのかもしれない。

 木屋町通りは、夜でも賑わいを見せ、あちらこちらで話声が上がっているが、そんな中でも颯ちゃんは祖父の小さな声を聞き逃さず、まっすぐに見て答えた。

「はい。とてもよい経験ができました」

「もともと素質の高い子だとは思っていたけど、こんなに早く香司になって戻ってきてくれるなんてねぇ」

 祖母が颯ちゃんも見ながら言う。

 私には、祖父と祖母の会話の糸口が見えなくて、二人に問うた。

「颯ちゃんって、香司になるために淡路島に行っていたの?」

 祖父母に聞いたはずなのに、口を開いたのは颯ちゃんだった。

「ええ。僕は香司になるために淡路で修業をしていました……が、一香さん、知らなかったんですか?」

 きょとんとした表情で逆に問われてしまった。

「あ、うん……。聞いたような……、聞かなかったような……」

 淡路で颯ちゃんが頑張っていることを家族当然の私が聞かされていないと知ったら、颯ちゃんはどう思うだろう。

 私は颯ちゃんを傷つけないようにあいまいに答えて、ちらりと祖母を見ると、目線を外された。