でも、それはお互いさまらしい。
私に彼の色が見えない、感情の動きが読めないことと同じように、頭脳明晰でどんなことでも推理してしまう彼に、私の気持ちはわからないみたいだ。
眉間にしわを寄せ、本気で悩んでいる彼に私はやっと声をかけた。
「なんでもないの! ただ颯ちゃんが令月香にいることにまだ慣れなくて……」
「そうでしたか。これから僕は毎日ここにいますので、早く慣れてくださいね」
「うん……がんばる」
「わざわざがんばらなくても」
そう言って短く笑った彼の笑顔に私の胸が高鳴った。
*
――『月令香に雇われましたから』
そう彼が言った時は、信じられなかった。
パッと目が覚めて、起きたら夢でした。なんて、そんなオチが待っているかと思ったけれど、私はまだ目を覚まさない。やっぱりこれは……
「現実だよね……」
「何ゆうてんの、一香。はよ、食べ」
「う、うんっ」
祖母に促された私は、目の前に並んでいる料理を見た。
本マグロ、ヒラメの昆布締め、イカ、サーモンなどの造りの盛り合わせに、トマトやオクラなど季節の野菜の土佐酢ジュレがけ。加茂茄子と刃物揚げだし、ふんわりと焼きあがった出し巻き卵など、数種類の和食が並んでいる。
私は美しく焼かれた出し巻き卵を食べた。ふんわりとした食感の後に、じゅわりとだし汁が口の中に広がっていく。
「おばあちゃん、おいひいよ!」
「これ、お行儀の悪い! 食べている最中にしゃべらへんの!」
「も、もめん……」
「ははは」