「いつもじゃないよ? それにね、言わなかったっけ? 二年生になって、私と恭太郎のクラス離れたの。私もう京都に来て一年だよ? もう恭太郎に教えてもらわなくて大丈夫だから」
“恭太郎”は、この商店街で代々伝わる老舗和菓子店の跡取り息子だ。百七十センチを少し超えるくらいの身長に、短い黒髪。端正な顔立ちをしている男の子。
恭太郎と初めて顔を合わせたのは、私がこの町へ越してきて、三日目の時だった。
まだ新しい町になじめずに緊張しながらも、商店街の皆さんにご挨拶にまわっていた最終のおうちが恭太郎の家だった。
玄関先で「はじめまして、よろしくおねがいします」と挨拶をする予定だったけれど、私を見た彼は、開口一番にこう言った。
『……誰?』
『東京から越してきました、賀川一香です。よろしくお願いします』
『中学生?』
不愛想だけど、まっすぐに人を見て話すタイプのようで、人見知りの私はたじろいでしまう。
『こら、恭太郎! 一香ちゃんはアンタと同じ年の十五歳! 春からあんたと同じ高校に通うことになったんや!』
『いったぁ、それぐらいで殴るなよ』