「そうでしたか……」
ポツリと、颯ちゃんが言った。
颯ちゃんには、何かが分かったみたいだ。私には何も分からなかった。
ただ分かったことは、自分の心を殺して、母親のルールを守ろうとした幼き彼がいたことだけ。その現実に涙が出そうだった。
「あなたはその店をポッポと言っているんですね?」
「はい……」
「では、行きましょう。そのお店に。きっと今も思い出の匂い袋が売っているはずです」
颯ちゃんは迷いなく商店街を歩き、商店街の外れにある店舗へやって来た。
そこの店名は「鳩屋堂」
お香や雑貨を売っている老舗のお香専門店だった。
店舗のマークは幸せの象徴、二匹の鳩がのびやかに飛んでいる絵だった。
恭太郎は、店の外で待っていると言うので、私たち三人は、店内へ入った。
令月香とは、漂う香りが違う。このお香専門店から漂う香りは……、
「甘いですね」
「ええ……ここには、特別な匂い袋が売ってあるんです」
颯ちゃんは、迷いなく店内の匂い袋コーナーへと足を運んだ。
さまざまな種類の匂い袋がある。その中に、ひとつだけとても小さな匂い袋があった。
これほどミニサイズの匂い袋は、令月香にはない。颯ちゃんはその匂い袋を迷いなく持ち上げて言った。
「この匂い袋はとても小さいでしょう? 携帯ストラップ用にもなるんですよ」
「あ、はい……」
私は、颯ちゃんが突然何を言い出したのかわからなかった。
「このサイズ、小さな子どもの手にぴったりだと思いませんか?」
「え?」