「ある日、習い事が終わってみんながクッキーやゼリーなんかを食べている時も、『ウチは甘いお菓子は禁止しているから』と母が言って、僕は干芋などを食べていました。けれど、ある時、友だちがこっそり一つチョコレートをくれたのです。
僕は隠れてそれを食べました。世界の色が変わるほど、そのチョコレートは甘くておいしくて……。その甘味にもう一度触れたいと思ってしまった僕は、次の機会に、友だちの鞄を勝手に開けて、色どりどりのお菓子を取り出し、狂ったように食べていたそうです」
「え……」
「それを見た母親は、激高しました。家に帰って蔵の中に閉じ込められ、しばらくは食事ももらえませんでした。ひどい言葉を投げつけられ、謝りに行こうとしても、僕の言葉は聞いてもらえませんでした。
僕は自分を責めました。甘いお菓子が食べたいと思った自分を呪いました。二度と食べませんと誓約書を書くと、母親は、”砂糖は悪なの。私はあなたを立派に育てなくてはいけないの……”そう言って泣きました」
私は、声が出なかった。
「それから僕は、全く甘いお菓子を食べませんでした。食べることを悪だと思っていたのです。両親の離婚が決まって、引っ越しも決まってから、最後に祖母の家に遊びに行った時でした。近所の子どもたちがアイスクリームを食べながら歩いているのを見ながら、僕はおやつに煮干しを食べていました。
その時、僕は祖母に言ったのです。“おばあちゃん、僕は食べられないけど、アイスってどんな味?” と。
その言葉を聞いた祖母は、“ごめんね、ごめんね、りさ子を許してやって”と母の名前を呼びながら、泣き続けました。そして、祖母は、僕をあるお店へ連れて行ってくれたのです。思い出の中の僕はそこを「ぽっぽ」と呼んでいました。そして、そこで思い出の匂い袋を買ってくれました」