心の内側に眠る言葉は、隠したい思いや思い出なのかもしれない。

 それを話すだけの価値ある人間なのか問われている気がした。

 私には、彼の心のわだかまりを解くほどの器はないけれど、自分の気持ちは正直に話したいと思った。

 彼をまとう色がずっと、「悲しい、寂しい、会いたい」とめぐりながら泣いているから。

「私も大切な物があるんです。実は……、これです……」

 そっと鞄につけてある若草色の匂い袋を彼に見せた。

 颯ちゃんの視線がこちらを向いたのが分かった。颯ちゃんは、きっと覚えていないだろう。

「それは、……匂い袋ですか?」

「はい。昔、ある人から頂いたんです。ずっと大切にしていて、もう香りは消えてしまいましたが、お守り代わりに持ち歩いているんです」

「お気持ち、わかります」
 健さんが頷いた。

「小さなころ、私、深く悩んでいて……。この匂い袋に助けられたから、健さんもそうなんじゃないかって思って」

 私は正直に話した。健さんは真っ直ぐに私の目を見つめる。

「一香はお前のために思い悩んでたぞ? さっき縁戻し神社にも行ってきた。全部、お前のためや、糞坊主。こんなお人よしがここまで言うてんのに、お前は何も言わへんのか?」

 抹茶オレを飲みながら恭太郎が言う。

 健さんはふっと息をつき、「そうですよね……僕のために……」そう呟くと、ゆっくりと話し出した。