フワフワするんだ。この人の声を聞くと。
私の足は地面から離れたようにふわふわと揺れ、心地いいんだ――。
懐かしさを感じる低い声の持ち主を確かめたくて、ゆっくりと振り向いた。
そこには、色が見えない男の人が立っていた。
アーケードの隙間から差しこんできた光が、彼の輪郭を淡く彩る。幻を見ているようで私は目を凝らした。少しして、光がかげるとハッキリとその姿は見えた。
目のかかりそうな黒髪に、切れ長の瞳、通った鼻筋。うすい唇を一文字に結んで、右側だけ持ち上げるように笑うこの人は――……、
「颯ちゃん……」
そこには、私がずっと会いたかった人、三ツ井颯也さんが立っていた。
私の震える声に気づいた颯ちゃんが、一歩ずつ近づいてくる。
目の前にいる彼は、記憶の中の彼よりずっと男っぽかった。艶っぽかった。
――会いたかった……。
「……本物の……颯ちゃんなの?」
「ええ、本物ですよ」
「ほんとに? ほんと?」
「ほんとですよ、どうして?」
クスリと笑って、颯ちゃんが問うた。
「だって、颯ちゃんの居場所、誰に聞いても教えてもらえないから……本当はもう死んじゃったのかと思ってた」
「やめてください、縁起でもない」
颯ちゃんは、真顔で言ってから、笑いだした。ひとしきり笑った後、腰を落として視線を合わせる。夏の輝きが色褪せてしまうほど、彼だけが輝いて見えた。
「大きくなりましたね。一香さん」