私と恭太郎はもう一度市バスに揺られ、寺町商店街へと帰ってきた。

 夕方になると、百店舗を超す寺町商店街には、観光客の姿が多く見受けられた。京都弁以外の言葉が飛びかい、カメラを持った外国の方もいる。見慣れた風景の中、私は隣を歩く恭太郎に話しかけた。

「勝手に出てきて、おばさんに怒られるかな?」

「大丈夫やろ」

「でも、もし怒られそうになったら、私からちゃんと謝るから、まずは雫屋さんに寄ってから帰ろう?」

「なんで俺が一香に送られやなあかんねん。てか、お前が謝ったところで、何も変わらん。その場ではにこにこして、後から鬼の登場やぞ」

「やっぱり怒られるんじゃない」

「……たとえ話や」

「あれ? 令月香さんのお嬢さん?」

 ふと、前から声をかけられて、私はそちらを見た。

 シワ一つないシャツを着て色落ちしていないジーンズを履いた、先ほどの匂い袋の彼が立っていた。一日、匂い袋を探していたのだろうか。彼の色が少し疲れているのがわかった。

「先ほどはありがとうございました」

 私はそっと頭を下げる。

「こちらこそ、ありがとうございます」

「あれから、どうでしたか? 思い出の匂い袋と出会えましたか?」

「いえ……」

 そっと視線を外された。彼をまとう麻木色が小刻みに揺れている。

「この人が、一香の縁戻しの理由か」

 ぼそりと恭太郎が言った。

「縁戻し……とは?」

「実は今、縁戻しのご利益のある神社へ行ってきたんです。お客様と思い出の匂い袋との縁が戻りますようにと、お願いしてきました」

「そんな……っ、僕のために……、わざわざありがとうございます」

「いえ、こんなことしかできなくてごめんなさい」

 気持ちを込めて、ゆっくりと頭を下げると、

「何かお困りごとでも?」

 背後から低くて、心地よい声が聞こえた。