右手には古本屋。左手には、今流行りの洋服が売られてある。
 そんな古くて新しい寺町商店街を歩いていくと、柔らかな匂いが鼻先をくすぐった。

「いい匂いがすんなぁ」
「どこからやろ」

 商店街を歩く人々が思わず口にしてしまうほど、その香りが涼やかに人々に届いた。

 私はその香りの正体を知っている。

 その香りは、ここから数メートル先にある老舗香店「令月香」から漏れるやさしくも奥深い香り。香りの老舗が守り伝えてきた「伝統の香り」だ。
 その香りが体の中に染みわたるころ、私は「令月香」の大きな暖簾をくぐって、お店の中に足を一歩踏み入れた。

「一香、おかえり」

「ただいま、おばあちゃん」

 そう、私は数百年前からこの寺町通に店を構える老舗香店「令月香」の孫娘なのだ。