彼の匂い袋が見つかりますように、そう思い、長く頭を下げて見送った。

 けれど、それは果て無く大変な作業になるのではないかとも思ってしまった。ここ京都には匂い袋を扱うお店がたくさんあるから……。

「一香」

 しばらくして、声が聞こえて目を上げると、そこに恭太郎がいた。

 右胸に「雫屋」と書かれた割烹着を着て、私のことを見ている。

「恭太郎、どうしたの?」

「これ、花さんに持っていけって、親に言われて」

 恭太郎の手には、お盆がある。そこに美しい和菓子がいくつか並んであった。

「夏から始まる聞香カフェの最終試作。最高のができだから、きっと気に入ってもらえると思う」

 強い瞳と自信満々の笑みを見せて、恭太郎が言う。彼は自信家だ。和菓子のことになると、特に。

「一香はまたなんでそんな顔してんねん?」

 だから、見破られるのだろうか。自信のある彼に、自信のない私の顔色は、不思議に見えるのかもしれない。

 私は、さきほどのお客様のことを思っていた。

 彼の思い出の匂い袋が見つかりますように……。そう願っているのに、見つからない確率の方が高いのではないかと思ってしまったのだ。

「恭太郎……、思い出を取り戻す方法はない?」

「はあ? また何言ってんねん」

「……ごめん。聞いてみただけ。そんなのあるわけないよね」

 気にしないで。そう言って笑って見せたけれど、へたくそな乾いた笑い方になってしまった。

 そんな私を追い越して、「令月香」に入った恭太郎は、祖母に和菓子を渡して、言った。

「花さん、ちょっと一香、借りてもええ?」

 祖母から了承を得ると、恭太郎はすぐに私の元に戻って来た。

「ほな、行くか?」

「えっ⁉ どこに?」

「縁戻し神社」