珍しく桜色に頬を染めた彼の横顔を見ていると、柔らかな風に乗って、私の手首からいつもの香りが届いた。それは彼からもらった塗香の香り。爽やかでいて、少しだけ甘い。私だけの香り――。
その香りは彼にも届いたようで、彼はそっと言った。
「今日もつけてくれているのですね」
「はい。私の大好きな香りですから」
私はそう答えながら、“香りのさんぽ”を楽しんだ薫照館で教えてもらった受付の女性の声を思い出していた――。
『塗香、それは魔除けの効果があります。悪い物をあなたから遠ざける香り。
“それはあなたを守りたいと願う香りです――“』
