私は颯ちゃんに手を振って、重い足を一歩ずつ動かし、改札をくぐり、そして新幹線に乗り込む。
自分の席に座って、ひとつ深呼吸をすると、新幹線がゆっくりと走り出した。小窓から見える景色が流れていく。私は彼からもらった手紙をゆっくりと広げた。
そこには、一行だけ書かれていた。和歌だった。
書かれていた和歌は、この前、颯ちゃんが行った組香「星合香」の証歌。
恋ひこひて 逢う夜はこよい 天の川 霧立ちわたり 明けずもあらなむ
颯ちゃん、私のこと和歌もわからない子どもだと思ってるの?
それともちゃんと香道の勉強してると思ってくれている?
私、わかるよ。あなたの気持ち、わかってしまうよ。
その和歌に心が熱くなる。胸が痛くなる……。
(やっと会えた今日この日、霧がたって、夜が明けないでください)
ホロホロと涙を零し、一行だけの恋文を、香りのしない匂い袋の中に入れた。
私には彼からの文が入った匂い袋。手首には彼からもらった香りがある。
その二つを手に、私は今から過去に行きます。
その結果がどうか愛おしいものでありますように――。
