翌日、一人で大丈夫だと言ったのに、颯ちゃんは京都駅までついてきてくれた。中央改札口の前で立ち止まった。この改札を抜けて新幹線に乗れば、あっという間にこの町を出ることになるのだ。
胸の中にいろんな気持ちが詰まっていて、破れそうになる。
家族に会えば、気持ちが揺らぐことはわかっている。
さなえさんとの話した時に、私は母に会いたいと思ってしまったからだ――。
心の中にいる小さな私は、やはり母の側にいたいと思うのかもしれない。お父さんと三人で、またやり直したいと家族三人で暮らしたいと願うのかもしれない。
本当のところ、私は決めきれていないのだ。
でも、会えばきっと決められる。ちゃんと過去と向き合えるだろう。
私はこの町へ来て、みんなに守られてきたからだ。
過去と向き合うだけの力を京都でもらってきたから――。
「一香さん」
柔らかく彼が名前を呼んだ。周りでは、人々が忙しそうに行き交い、頭上には場内アナウンスが流れていたが、彼の真剣な目を見れば、周りの音など一度で吹き飛んだ。
彼は静かに微笑むと、そっと話し出した。
「僕は、あなたの意見を尊重します。ですがそれは、あなたの意見だから尊重するのです。あなたはあなたが想っている以上に優しい人だ。だから、他の人の意見に流されないで。他人の考えを悲しみを自分の気持ちだと思わないで。自分の心と向き合って、冷静に判断してください」
彼はきっと気づいている。私が揺れ動いていることを。
その揺れ動きが間違った答えにならないように、こんな言葉を添えてくれたのかもしれないと思った。
