夏の暑さを含んだ風が鴨川で冷やされて流れてくる。涼しくなってきたなと空を見上げると、星が瞬いていた。風が吹いて夜空の星たちを動かす。新緑が風に揺れ、さわさわと歌い出す。この居心地のいい場所にずっといたかった。でもいつまでもこのままではいられない。
「颯ちゃん、そろそろ帰ろっか? おばあちゃんたち、心配してるかも」
「……そうですね」
やっと彼が話してくれた。その声はいつもよりずっと低かった。
長かったはずの日がすっかり落ちている帰り道、私と颯ちゃんは話しながら歩いた。
「いつ行かれるんですか?」と聞かれ、「明日」と答えた。
彼は驚いていたけれど、「決めたらすぐに行動しないとまたミノムシみたいに丸まっちゃうからもしれないから」と言うと涼やかに笑って「一緒に行きましょうか?」と言ってくれた。
私はそれを断った。
「大丈夫。一人で行ってくる」
心に誓う。
さきほど河原で颯ちゃんから力をもらったばかりだ。
充電百パーセント、いや、千パーセントの私は、一人で乗り切れる。そんな予感がする。
澄んだ夜空に新しい星が見えた気がした。雲が動いて、きっと顔を出したのだ。
