「認める?」

「はい。僕が香司になりたいと虎次郎さんに相談した時、「それなら京都やなく、淡路へ行け」と言われました。そして「お互いに思ってることを全部話せ。それでわかりあえんかったらもうええ」と。「過去を納得して、初めて過去と縁が切れるんや」そう教えてくださいました。そして僕は四年間、淡路で暮らし、父と和解しました」

 私は静かに頷いた。

「父は、日菜子が僕の方ばかりになつくから、嫉妬したと言いました。そんな理由なのかと笑いながら、ある本に書かれていたことを思い出したのです。小さくて弱いものを守るために、群れのリーダーは、血縁の違う力のあるものを敵対視する、と。父はその状態に陥っていたのかもしれません」

「でも、わかってくれたんだよね? 颯ちゃんは、敵じゃないって」

「……ええ」

 淡路へ戻り、颯ちゃんは過去の苦しみと縁を切って帰ってきた。

 今は、本当の親子のように、日菜子ちゃんを守る心強い同士のように、新しい父と新たな関係を築いていたのだろう。

 誰かが誰かを想って出した答えはどれも優しくて、どれが正解なのかなんて誰にもわからないけれど、複雑に絡み合った過去を颯ちゃんの家族はちゃんと乗り越えていた。

 颯ちゃんの新しいお父さんはきっと過去に彼を疑ってしまったことを後悔しているに違いない。運転席の彼からは時々淡い色、後悔の色が見えていたから――。