「日菜子―! 颯也―っ」
ふと堤防沿いから女性の声が聞こえて顔を上げる。そこに颯ちゃんママがいた。運転席には目の垂れた男性もいる。彼が颯ちゃんの新しいお父さんなのだろうか。
「一香さん、日菜子が無理ばかり言ったでしょう。ふりまわしちゃってごめんなさいね」
「そんなそんな……日菜子ちゃんと一緒に遊べて楽しかったです」
「俺も」
ふと颯ちゃんがそう言う。
母親の前だと普段よりも少年のように見える。不思議な感覚だった。
「じゃあ、そろそろ帰るわね……」
「ああ」
颯ちゃんママの色が悲しみに揺れている。彼女も日菜子ちゃん同様の揺れ方をしていた。
きっと、一緒に帰りたいのだろう。颯ちゃんのことが大好きで仕方がないのだ。二人の色を心を暖めて見ていると、ふと横目に運転席にいる男性の色が見えた。
彼の色も二人と同じ色の揺れ方をしていた。
……颯ちゃんを追い出したのはあの人なのに、颯ちゃんと離れるのが寂しいの?
「颯也、京都でがんばるのよ」
「うん」
「でも、疲れたらいつでも帰ってきて。お父さんも、あなたのこと、ずっと気にかけてるから」
颯ちゃんが車のほうへ目を向けた。運転席の彼も颯ちゃんを見ている。
「一緒に出てきたら? って言ったんだけどね。ここ車止めておけないから」
互いに声をかけることはないけれど、新しいお父さんの色が穏やかに揺れ動いたのが見えた。颯ちゃんは朗らかに微笑む父を見て、口元を綻ばせた。
「……うん」
