ふがいない私がまた悲しんだから? 何もできないと泣いたから?
 その思いが伝わって慰めてくれているのだろうか?

 鳴り続ける心音を隠すこともできず真っ赤な顔を隠すこともできない私は、そっと彼を見上げる。彼は射抜くような目をして言った――

「僕のために泣かないでください。僕はあなたを……守りたいんです――」



――『ねぇ、颯ちゃん……、私ね、人に、色が見えるんだ……』

 まだ私が十歳だった頃、大学生だったあなたの背中に頬をつけたまま、ぽつりとつぶやいた神社前でのあの夜。颯ちゃんは静かにこう言ってくれた。

『困っているのは一香さんでしょう? だから、他人のことまで心配して、これ以上、傷つかないでください』

 私が他人を困らせていると思っていたのに、困っていたのは、私なの?

 颯ちゃんの言葉に胸が熱くなり、目に涙が溜まった私に彼は染み入るような静かな目をして大切なことを教えてくれた。

『あなたは、守られるべき存在なのだから――』と。