「ええ……少しだけですが」

「少しだけ? ずっとじゃないの?」

「はい。僕はずっと京都に住んでいたのですが、母が再婚することになりまして、それで少しの間だけ淡路島にいました」

「そうだったんだ。私、颯ちゃんのこと何も知らないね……」

 陽に温められた枯草から、特有の匂いが届く。

 彼は少しさみしそうに微笑んだ。私が何も知らないと言ったことがマイナスにとられたのかもしれない。“ごめんなさい、独り言です”そう言って笑おうとすると、彼の口がゆっくり開いた。

「僕と日菜子、年が離れすぎていると思いませんか?」

 それはずっと思っていたけれど、わざわざ言葉にする必要はないと思っていた。

 二人が自分たちは兄妹だというのだから。

「はい……」

 私はそれだけ言って頷いた。

「僕と日菜子は父親が違います。日菜子は母の再婚相手との間にできた子どもなんです」

 私は驚きながらもこくりと頷いた。
 なんとなく、違和感はあったからだ。

 颯ちゃんと日菜子ちゃんは兄妹というより、兄妹になりたい何かのようにも見えたから。いつでも離れていきそうな颯ちゃんを日菜子ちゃんが必死につなぎとめている。

 離れないで。どこにも行かないで。そんな心の叫びのような、寂しさと不安の色が、颯ちゃんに会えて嬉しいという強い色の中に滲むようにずっと見えていた。

「今、新しい家族は、淡路で幸せに暮らしています」