『虎次郎さんと花さんは、僕の命の恩人ですから』
先日聞いた彼の言葉の意味も、彼が令月香をこれほど大切に思ってくれているのかも。
人には様々な都合や想いがあると思っている。だから、必要以上にその人の過去を聞きだそうとは思わない。それは私にも人に聞かれたくない過去があるからだ。
けれど……今日の私は聞きたいと思ってしまった。
これほど、愛情深い家族が淡路島いるのに、どうして京都で暮らす祖父母を大切に思い、京都にいてくれるのかを。颯ちゃんはいつか淡路に帰ってしまうのかを。
川の流れが飛び石にひっかかるように、緩くなる。うねうねと曲がっては、繋がって、光る川となっていく。
私と颯ちゃんは、鴨川デルタで遊んでいる日菜子ちゃんが見える位置に座っていた。
小さな流れがさらさらと音を立てる。隣の颯ちゃんが日菜子ちゃんに手を振る。
私は、太陽の陰りを見せた颯ちゃんの横顔を見つめて、呟いた。
「颯ちゃんって、淡路島にいたんだね」
ふと、彼がこちらを向いた。目が合った。
――『三年だけでも、いや、一年だけでもいい。やわらぎ聞香処を手伝ってくれへんか』
夜の鴨川沿いで聞いた祖母の声が耳に張り付いて離れなかった。
