この石段には、颯ちゃんとの思い出がつまっている。
あれから私は、颯ちゃんからもらった匂い袋ずっと持ち続けて暮らしてきた。
また颯ちゃんに会えた時、「嫌なことは見ないようにしているよ?」「最近は、それほど心を痛めなくなったよ?」そう報告しようと思っていたのだ。
けれど、中学生になって京都に帰省すると、大学を卒業した颯ちゃんは、アルバイトを辞めていた。それ以来、颯ちゃんが「令月香」に来ることはなかった。
それでも私は、颯ちゃんのことを想っている。もう一度、颯ちゃんに会いたいと願っている。
もう京都にいないのかな? どこか遠くに就職しちゃったのかな?
もう颯ちゃんには、会えないの……?
私は、鞄につけている若草色の匂い袋を見た。
匂い袋の効力は約半年。もうここから、あの時の香りは届かないけれど、この匂い袋は私の大切なお守りなのだ。
キュッと握って、神社を見上げて「行ってきます」と小さく言った。
休日、石階段を登って境内をお参りしよう。また颯ちゃんに会えますように……と願いをかけよう。
「一香、お前、何してんねん」
知り慣れた香りと共に、背後から声がかけられた。
「えっ、恭太郎……」
「いつもより遅く出て来たけど、なんでこんなとこで出会うねん」
はあ……と大きくため息をついて、恭太郎が私を追い抜かしていった。
「はよ行かな、遅刻やぞ」
「う、うんっ!」
*
電車に乗り込んだ私は、隣に立つ恭太郎を見上げる。
颯ちゃんほどではないけれど、恭太郎、背が高くなったなぁ。初めて出会った時より五センチくらい伸びた? いや、もっとかな?
「なんやねん」
ぶっきらぼうに外を見ながら恭太郎が言う。
「恭太郎、大きくなったなって」
「なんで母親目線やねん。お前がチビなだけやろ」
「そんなことないよ! 高校に入ってから、二センチくらいは伸びました!」
フンと鼻で笑われてしまった。
その横顔は、大人の男の人の陰りを見せて、私はまた颯ちゃんを思い出してしまう。
あれから私は、颯ちゃんからもらった匂い袋ずっと持ち続けて暮らしてきた。
また颯ちゃんに会えた時、「嫌なことは見ないようにしているよ?」「最近は、それほど心を痛めなくなったよ?」そう報告しようと思っていたのだ。
けれど、中学生になって京都に帰省すると、大学を卒業した颯ちゃんは、アルバイトを辞めていた。それ以来、颯ちゃんが「令月香」に来ることはなかった。
それでも私は、颯ちゃんのことを想っている。もう一度、颯ちゃんに会いたいと願っている。
もう京都にいないのかな? どこか遠くに就職しちゃったのかな?
もう颯ちゃんには、会えないの……?
私は、鞄につけている若草色の匂い袋を見た。
匂い袋の効力は約半年。もうここから、あの時の香りは届かないけれど、この匂い袋は私の大切なお守りなのだ。
キュッと握って、神社を見上げて「行ってきます」と小さく言った。
休日、石階段を登って境内をお参りしよう。また颯ちゃんに会えますように……と願いをかけよう。
「一香、お前、何してんねん」
知り慣れた香りと共に、背後から声がかけられた。
「えっ、恭太郎……」
「いつもより遅く出て来たけど、なんでこんなとこで出会うねん」
はあ……と大きくため息をついて、恭太郎が私を追い抜かしていった。
「はよ行かな、遅刻やぞ」
「う、うんっ!」
*
電車に乗り込んだ私は、隣に立つ恭太郎を見上げる。
颯ちゃんほどではないけれど、恭太郎、背が高くなったなぁ。初めて出会った時より五センチくらい伸びた? いや、もっとかな?
「なんやねん」
ぶっきらぼうに外を見ながら恭太郎が言う。
「恭太郎、大きくなったなって」
「なんで母親目線やねん。お前がチビなだけやろ」
「そんなことないよ! 高校に入ってから、二センチくらいは伸びました!」
フンと鼻で笑われてしまった。
その横顔は、大人の男の人の陰りを見せて、私はまた颯ちゃんを思い出してしまう。