颯ちゃんが私にくれた香りはそれほどロマンチックな香りではなかったらしい。

 やはり、「恋」に繋がる気持ちで、贈ってくれたのではなかったのだ。

 颯ちゃんは塗香の香りがただ好きだったのだろう。

 冷静になるといろいろわかってくる。

 彼がくれるものは日常使いのもので、彼が向ける視線は、日菜子ちゃんにむける視線と同じだということを――。

 大文字焼の夜に見た、広い背中。白くて大きな手のひら、赤く染めた頬は、全部幻だ。

 期待してしまった自分を小さく笑って、初恋が二度と出てこないように、胸の外側に鍵をかけた。



「日菜子な、行きたいところいっぱいあんねん!」

 香りのさんぽを堪能した日菜子ちゃんは、元気いっぱい言った。

「いっぱいあっても時間がないからな。一個だけ聞いたる」
 そういう颯ちゃんに日菜子ちゃんは耳打ちをする。

 颯ちゃんは彼女の行きたいところを聞くと、「了解」と言った。そして「一本だけ電話をかけさせてください」と言うと、どこかへ電話をかけた。

 日菜子ちゃんの行きたいところは、ある映画の中で見た場所らしい。日菜子ちゃんがはまっているアイドルが主役で、その映画の大切なシーンで、使われていた場所だそうだ。

「うわぁ……」