「こんにちは」
その時、薫習館の受付の女性が話しかけてきてくれた。とても愛想のいい綺麗な人だった。香りのさんぽの説明や、隣のお香店の説明、上の階で開かれている展示の説明などを聞いた後、彼女の色が揺れた。何かに気づいたかのようだった。
「私に、何か?」
そっと問う。
「……お客様の香りはもしかして、塗香ですか?」
「はい。塗香です」
さすが、老舗香店の受付の方だなと思った。私の香りを聞いて、それで色を変えたのだ。
「私も塗香大好きです。初めはスパイシーなのに、つけていると少しずつ甘くなっていって。心地いい香りですよね。けれど、若い女性の方がつけておられるのは珍しくて、それで驚いてしまって。大変失礼いたしました」
「いえ、そんな。気になさらないでください。私、人から頂いてこの香りをつけているのですが、この香り……そんなに珍しい香りなんですか?」
きょとんとして、答えた。
この塗香をくれた颯ちゃんは日菜子ちゃんに手を引かれ、大きな香木を見ている。
「香り自体は有名な香りなんです。住職やお寺なんかで重宝されることが多いものなんですよ?」
「そ、そうでしたか……」