「香りのお遊びみたいなもんや」

「いいなぁ、日菜子も行きたい! そうちゃんみたいに香りのお遊びに行きたいっ!」

 女の子は、颯ちゃんを見るとわがままを言いたくなるのかな?
 包容力のある彼は、何でも許してくれると錯覚してしまうのかもしれない。

「日菜子にはまだ早いわ。組香は大人の香り遊びやからな」

 日菜子ちゃんは頬を膨らませる。そして「降ろして」と言いその場に降りて、颯ちゃんに背を向けた。

「日菜子?」

 頬を膨らます日菜子ちゃんに「何怒ってんねん?」と動揺する颯ちゃん。

 年の離れた兄妹とはこのような感じなのだろうか。私は一人っ子で、兄弟がいないからわからないけど、わがままを言えるお兄ちゃんがいる日菜子ちゃんを羨ましいと思った。

 小学校低学年くらいに見える日菜子ちゃんは、颯ちゃんに会えて嬉しいのだろう。わがまま言って振り回したくなるほど、自分に興味を持ってほしいのだろう。

「あら、颯也君のおかあさま」

 二人のやりとりを微笑ましく見ていると、祖母が店先に出てきて、声をかけた。颯ちゃんママはすぐに頭を下げた。

「賀川さん、こんにちは、突然押しかけまして、誠に申し訳ありません」