気づけば、日菜子ちゃんを抱っこしたまま颯ちゃんがこちらへ近づいてきていた。

「一香さん、ただいま戻りました」

 颯ちゃんはいつもと変わらぬ笑顔でそう言ったけれど、颯ちゃんに抱かれている日菜子ちゃんの目つきが変わる。私のことをジロリと見て。

「そうちゃん、この人、誰? もしかして、そうちゃんの彼女?」

「そそそんなわけありませんっ!」

 私一人が必死に答えてしまったが、颯ちゃんは静かに微笑んでいる。

 颯ちゃんは色が見えないんだから、そういう大人の対応はやめてほしいといつも思う。

「そうよね。そうちゃんがこんなチンチクリン選ぶわけないよね」

「チンチクリン」

 私よりもずっとミニチュアな日菜子ちゃんにそう言われてしまった。けれど、フランス人形のような日菜子ちゃんからチンチクリンと言われてしまえば、それはそうだと頷いてしまいそうになる。でも、そんなこと自分で認めてしまってはダメだ。うっと言葉を詰まらせていると「こら、日菜子」と颯ちゃんが彼女をたしなめた。

「一香さんは僕なんかにはもったいないほど素敵な女性ですよ」

 家族の前でも平気でそんなことを言うのだから、”女性”として意識なんてされてないことくらい馬鹿な私でもわかってしまう。私は苦笑してから答えた。

「日菜子ちゃん、颯也さんはうちのお香カフェの店主で、私はただの従業員だから、安心してね」

 心からの言葉だった。