次の瞬間、彼女が颯ちゃんにとびついた。
颯ちゃんは着物から伸びた長くて筋肉質な右腕でその子を軽々と持ち上げると、女の子と目線を合わせて言った。
「日菜子、どうしたんや? 急に」
「そうちゃんに会いに来たんやで!」
「一人でか?」
「ううん。ひとりちゃうで。ほら」
そう言って、颯ちゃんに抱かれたまま、女の子が後方を指さした。
指をさされた先に私はいた。少女の指先がこちらに向いたことに驚きつつ、でも、と冷静に現状を見る。
彼は私の奥にいる誰かを見ている。振り返ると、私の少し後ろに清楚な女性が立っていた。
肌が透き通るように白い。姿がほっそりとしていて、簡素の白のブラウスがやけに白く見えた。彼女の目元に小さな泣きぼくろ。
「母さん……」
「颯也、久しぶり」
その表情の作り方も、声の出し方も、はにかむように笑う姿も颯ちゃんによく似ていた。
そして、片手で颯ちゃんに抱かれている少女もこの女性によく似ている。彼らから遺伝の強さを感じてしまう。きっと少女は颯ちゃんの妹で、三人は家族なのだ。
颯ちゃんのお母さんは、令月香前で竹箒を持つ私を見て「令月香のお嬢さんかしら?」と訊いた。
私は慌てて「はいっ」と返事をする。
「いつも颯也がお世話になっております」
彼女は深く深く頭を下げた。