颯ちゃんの言葉が体中に広がっていく。
私はキュッと、心の奥そこに、颯ちゃんからもらった言葉を抱きしめた。
頬につたう涙をそのままに私は、こくりと一つ頷いて、「ありがとう」と言った。
けれど、この優しい夏休みはもうすぐ終わってしまう。
そうすれば、私は自分を押し殺し、あの町でひっそりと生きなければならない。
お母さんには「驚かせてごめんね。本当は色なんて見えないから」と嘘をつかなくちゃいけない。秘密はこの町、京都において、私はまたあの町で頑張らなきゃ……。
そうすべての想いを口にした後、そっと颯ちゃんが言った。
『では、おまじないをかけましょう』
『おまじない?』
子どもだましが来たな、と思った。
十歳女子をなめないでほしい。半分信じているけれど、半分は疑っている。子ども扱いはとても嫌だ。
『そのおまじないは、この袋と共に使うと、より効果が出ます』
颯ちゃんは、手のひらよりも小さな巾着袋を取り出した。
『これは、何?』
若草色のミニ和柄の巾着袋。ぷっくり膨らんだところから、かすかに良い匂いがする。
『これは匂い袋です。一香さんが困った時、この匂い袋を手にしてください。この香りは人に安らぎを与える効果があります。そして、あなたを守るお守りの役目もあります』
『……うん』
『それでも辛い時は、目を閉じて、この香りだけを感じて、もうそのことは見ないようにしてください』
『見なくていいの?』
『はい。受け入れたくない現実は見なくてもいい。目を閉じて、香りを聞いて、見ない。考えない』
『……』
『一香さんは自分の心を守ることを一番に考えてください』
少し難しかったけど、自分なりに理解した。
嫌なことは見なくていいんだと、私は今、颯ちゃんに教えてもらっているんだと。
颯ちゃんにもらった匂い袋を鼻先につけてみる。柔らかでいて、上品な匂いがした。
颯ちゃんが言うように、この香りは、心が落ちつかせる魔法の成分が入っているみたい。この香りがあれば、私は東京へ帰っても頑張れる気がする。
『颯ちゃん、ありがとう……。私、やってみるね』
『はい。僕は一香さんのことを、ずっと応援していますから』
『うん!』
私はキュッと、心の奥そこに、颯ちゃんからもらった言葉を抱きしめた。
頬につたう涙をそのままに私は、こくりと一つ頷いて、「ありがとう」と言った。
けれど、この優しい夏休みはもうすぐ終わってしまう。
そうすれば、私は自分を押し殺し、あの町でひっそりと生きなければならない。
お母さんには「驚かせてごめんね。本当は色なんて見えないから」と嘘をつかなくちゃいけない。秘密はこの町、京都において、私はまたあの町で頑張らなきゃ……。
そうすべての想いを口にした後、そっと颯ちゃんが言った。
『では、おまじないをかけましょう』
『おまじない?』
子どもだましが来たな、と思った。
十歳女子をなめないでほしい。半分信じているけれど、半分は疑っている。子ども扱いはとても嫌だ。
『そのおまじないは、この袋と共に使うと、より効果が出ます』
颯ちゃんは、手のひらよりも小さな巾着袋を取り出した。
『これは、何?』
若草色のミニ和柄の巾着袋。ぷっくり膨らんだところから、かすかに良い匂いがする。
『これは匂い袋です。一香さんが困った時、この匂い袋を手にしてください。この香りは人に安らぎを与える効果があります。そして、あなたを守るお守りの役目もあります』
『……うん』
『それでも辛い時は、目を閉じて、この香りだけを感じて、もうそのことは見ないようにしてください』
『見なくていいの?』
『はい。受け入れたくない現実は見なくてもいい。目を閉じて、香りを聞いて、見ない。考えない』
『……』
『一香さんは自分の心を守ることを一番に考えてください』
少し難しかったけど、自分なりに理解した。
嫌なことは見なくていいんだと、私は今、颯ちゃんに教えてもらっているんだと。
颯ちゃんにもらった匂い袋を鼻先につけてみる。柔らかでいて、上品な匂いがした。
颯ちゃんが言うように、この香りは、心が落ちつかせる魔法の成分が入っているみたい。この香りがあれば、私は東京へ帰っても頑張れる気がする。
『颯ちゃん、ありがとう……。私、やってみるね』
『はい。僕は一香さんのことを、ずっと応援していますから』
『うん!』