それからしばらく祖母とお茶の時間を楽しんだ颯ちゃんは、「ではそろそろ……」と言って立ち上がった。

 私が商品棚の側から彼に目を向けると、彼はこちらを見て、「行ってきます」と言った。

 私は嬉しくて、隠れていたことも忘れて、ほどけるような笑顔を見せて答えてしまった。

「いってらっしゃい」

 すると彼は柔らかく微笑みかえしてくれた。

 ああ……、これだけで十分だと思った。

 あの大文字焼の夜のことはなかったことにしたよう。あの言葉も取り消けそう。これ以上よそよそしくなるのは嫌だから。私はそう心に決めた。