「あああああ」

「なんや、一香」

「ご、ごめんなさい」

 隣の颯ちゃんが不思議な生き物を見るような目つきで私を見ている。そうだよね、そういう目になっちゃうよね。私だって、自分でびっくりしたもん、変な声出しちゃってごめんなさい。

 今なら突然そんなことを言われたら困るってわかる。従業員が店主相手に言う言葉じゃないって、ちゃんとわかるのに……。

 私の言葉は、間違わずに真っ直ぐに彼に届いたようで、次の日から颯ちゃんはとても他人行儀になった。

 目を合わせているようで、合わせていなくて。会話を楽しんでいるようで、上っ面だけの会話になり。そして何より、頭を撫でたり、持ち上げたり……。今まで何気なくしてくれたスキンシップが一切なくなった。

 彼は私から距離を置こうとしている。

 あの夜、赤く燃える炎に心を大きく揺さぶられて、あんなこと言うんじゃなかった。

 思わず涙目になってしまい、私はその場に立ち上がった。

「私、品出ししなきゃいけなかったんだ!」

 棒読みのセリフでそう言って棚のほうへ行くと、背後から「なんや変な子やな」という祖母の声が聞こえた。

「あ、そうや、颯也君。今日、組香が終わったら、令月香に寄ってくれへんか?」

「わかりました」