もともと丁寧に話す彼の言葉遣いには慣れていたけれど、目のやり場に困っているような颯ちゃんは見たことがない。この態度を見ると、私は落ち込んでしまう。

「……そうですね。今日は三十五度を超えるとか」

「打ち水をしてもすぐに乾きそうですね」

「本当に」

「困ったものだ」

「そうですね」

「あははは」

「はははは」

「あんたら、何やってるん?」

 そこに祖母が帰ってきた。お盆の上に、湯飲みが三つ乗っている。やはりお茶を入れていたようだ。開店三十分前なのに、温かいお茶を用意しているところが祖母らしくて癒される。

「なんなん。私が来たら笑って。二人きりの時はお面をつけたみたいな他人行儀で。二人、ケンカでもしてるんか?」

 そう言われてドキリとした。

「いえ、ケンカなどしていません」

「うんっ。そうだよ。ケンカなんてしてないよ」

「じゃあ、さっきからなんでお互いの顔を見んと外ばっかり見て話してんのや?」

「そ、それは……」

 私はそれ以上何も言えず口ごもってしまった。隣の彼を見ると、やはり困っている。

 颯ちゃんにこんな顔をさせているのは、あの夜の私の言葉が原因だ――。

 大文字焼きを見ながら、さなえさんの言葉を思い出した私は、彼との再会を奇跡かもしれない思った。そして、その奇跡を手放したくないと思ってしまった。

高鳴り続けた胸の奥の想いは、感情のままに言葉となって表れた。

『――私もう高校生なんだから』